本田美奈子さん@題名のない音楽会


 朝、たまたまつけたABCテレビ題名のない音楽会」、先日おなくなりになった本田美奈子さんの追悼特集でした。思わずテレビの前に釘付けになりました。


 私はいままであまりきちんと彼女の歌を聞いたことがなく、アイドル時代もほとんど知らず、ですので、病床に臥せておられることを耳にするようになって時折流れる断片的な歌声が、彼女についての私の知識の全てでした。
 今回、ほぼ一時間の番組全てを使って、彼女が番組で唱われた数々の楽曲を聴いて行くうちに、いえ、亡くなったという事実を忘れて、純粋にその歌声に涙がぼろぼろとこぼれました。
 正直言うと、これまで断片的に耳にした彼女の歌声は、少し私には金属的に過ぎるようで、絶唱的な唱法は悲痛さが際立ちがちなように感じていたのです。でも、今朝聴いた歌声は、確かな心を宿していました。いま思い出しても涙が出て来ます…。
 クラシック歌手の方々の歌声が、人間の身体をまるで楽器のように響かせ、オーケストラの中に確かなハーモニーを築き、双方の振動が増幅し合って聴衆を陶酔に導くものだとすると、彼女の歌声は、もちろん素晴らしい歌唱力と音域は言うまでもないのですが、その孤高なさまは、まるでオーケストラの安定した調和に、断固として人間のことばを手放そうとせずに挑み、闘い、祈り続ける、巡礼者のようでした。ことばが心を乗せて祈りのように届くのです…。
 
 番組は、今年の1月30日に放送された、最後の歌声で幕を閉じました。1月に入院された本田さん、文字通りの絶唱。それはしかも、1986年のマリリンからミス・サイゴンプッチーニの「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」と、彼女の歌手生活をたどるかのようなメドレーでした…。

 
 運命って何でしょう。彼女の歌を、人の心に深く強く刻み付け忘れさせまいと神が採った方法は、なんて、なんて酷いんでしょう…。


 短い年月をこんなに真摯に凄絶に力を出し切って生き抜かれた本田美奈子さんのご冥福を、改めて、心から心からお祈り申し上げます。安らかにお眠りください。