『おくりびと』

 このあいだ、tomkoさんの日記で読んで無性に見たくなり行ってきたこの映画。
 いやああ〜。号泣。 
 泣けて泣けて泣けて。人の生が、生き様が、置いてきた人生が、生きてる間は取り戻せなかった輝きが、納棺師の手によって、徐々に徐々に、その人の元に戻っていく。いや、死者のもとにだけではなく、それを見守る遺族の元に戻ってくる…。納棺師の儀式を見守る内に、人々の表情が刻一刻と変わっていく。それを魔法のように鮮やかに、カメラは切り取っていきます。

 モックン。驚いた。なんて美しい凛とした所作をする人なんだろう。
 一連の、まるでお茶のお作法のような動作もさることながら、チェロ奏者としての指さばき、本当に弾いているの?!と思うような自然さとダイナミズムがありました。その端麗な所作を目の当たりにしている内に、様々な思いがこみ上げて揺さぶられ、一つの死の現場がふと気づくと普遍的な姿に変わっている…。様式美というのは、そのような普遍的力、魂の奥を揺さぶる力に通じるのね…。うん、五右衛門の大見得でもそれは思ったんでした。そう、様式美は、表面的な美じゃなく、受け継がれる美、魂の美、眠れる美……なんだなあ。
 
 それらの美と思いを、納得の美しさで再現したモックン、ほんとに見事でした。彼も、身体で美を表現することが身についている人、なんですね…。山崎努さんが、役中の大悟に向かって言う「これはお前の天職だ」という言葉。身体を使って表現するという点で、大悟とモックンが重なった一瞬でした。
 
 なんでも未來さんに結びつけるのはホントにどうかしてるのですが(苦笑)、この美しい一連の動作を、未來さんならどんな風に表現しただろう…なんてついつい思ったり。目をつぶって想像すると、長いまつげの目を伏せ淡々と舞うように儀式を執り行う彼の姿が見えるようです。彼は表情も豊かだから、様々な内心の紆余曲折を、手に取るように表現してくれただろうな…。もちろん、この役には彼は若いんだけれど…。
 こんな美しい動作の数々を見せられると、ついつい思ってしまうんですよね(苦笑)。病膏肓に入れりってとこですね…。

 
 舞台となった、山形庄内の景色は息をのむほど美しかったです。しんと頭が冷えるような、そんな静謐な空気が流れていました。
 行ってみたいな。東北。