山脇悌二郎『抜け荷ー鎖国時代の密貿易』(日経新書)

 古本で買ったまま置いてあったのを読み出したら、なかなかおもしろくて一気に。
 「抜け荷」というのは、外国との、正規の貿易以外の商取引ー密貿易を指すのですが、16世紀以降の九州近海で活発な行われたその実情を、豊富な文献資料を基に活写したのが本書です。それに関わった長崎の地役人(通事・通詞も含め)や時に長崎奉行、また取り締まろうと幕府から遣わされた隠密達の行動も、『犯科帖』やら『風説書』などの史料を縦横に用いつつ語られるので、たいへんにおもしろい。
 へ〜、間宮林蔵は、長崎でも隠密やってたのね〜。おやおや、『篤姫』で服毒自殺を遂げた調所広郷(@草刈さん)って、薩摩藩が藩ぐるみで行っていた抜け荷工作の張本人なの?!日本史に詳しくない私でも知ってるビッグネームが、「本役」ではないもう一つの姿で時空を縦横に活躍する姿、なかなかドラマチックです。
 著者山脇悌二郎は、さすが近世対外交易史の専門家、文献資料の確かな運用が下敷きにあるから大変説得力があるんだけれど、今回は学術書とはひと味違う「新書」。そこで彼が繰り出す筆致は、幕府のご公儀にたてつく不届き千万な悪党ども!といった講談語りめいた味わいがあって、ちょっと新鮮でした。にっくき悪党!と言いつつ、けっこうその策謀の数々をおもしろがっていそうなところや、磔獄門といった極刑に問われたのは常に位の低い役人と庶民だけ、本当の大悪党はお咎め無しという史実を、淡々とあぶり出す迫力も備えていて、最近のサラリとした筆遣いの新書とはひと味違いますね。1965年だもんね…。

 こういうネタで、中島さん、また脚本を書いてくださらないかしら。いや、『SHIROH』でも少し扱われてはいたけれど。江戸の絵草紙屋が隠密やってたけれど。
 『風説書』や『華夷変態』なんかをネタに、長崎か薩摩を舞台にした大がかりな密貿易物語。もちろん海賊の五右衛門一派も活躍させてください。時代が少し後になるけれど、そこらへんはまあファンタジーですから!東インド会社の極東総裁や、オランダ商館長も登場できますよ〜。カルマ王子は、ヴァタビアのお姫様と恋に落ちたりしてもらっても良いんじゃないかと思います。って、話が抜け荷じゃなくなってきてる(苦笑)。

 ともかく、おもしろかったです。
 でも、磔は残酷な刑ですねえ…。釜ゆでの方がまだましだわ…いや釜ゆでも普通は助かりませんが。