風穴

 朝、ふと気がついたら新しい日付がページの上に踊っていました。2月12日。そっか、今日は2月12日なんだ…。彼の日記で日付を知ることができる幸せ。寒い朝のささやかな暖かい心地。

 東京に戻ってきた侍くん。いや、「侍」って他意はありません。ふとそんな気がしただけ。風穴から吹き込む風の行方を、目をすがめて見定める。息を潜めて精神を集中し…でもそれは踏みとどまろうとするんじゃなく進もうとしてるから。一歩をどうやっていつ踏み出すのか、それを風のありかと共に聞き取ろうとする。そのイメージがね、なんとなくそんな名で彼を呼びたくなったってだけなんです…。
 でもこの侍くん、じっと風をうかがうのは、ぢきにしびれを切らすに違いない。きっとほらまっすぐ風に顔を向けて走り出す。それも無謀とも思える大きな歩幅で。そうなったらもう、止まれったって止まりゃしない。ダダダダって駆けてく。そして私たちを振り返って、満面の笑顔で、たーっ!!ってな具合に、一人上手のポーズを取ってみせてくれるんだよ(笑)。

 それとね、「東京に戻ってきました」という言葉を読んで、ふと何とも言えず嬉しくなった。いや私は関西人ですけど(笑)。
 あなたのいる場所は東京。腰掛けじゃなくそこで生きてる。もがいてドロドロになって、爪を地面に立てて生きている。
 その生き物としての実感が、「断固として否定できない今の僕」という、心からわき出た言葉に結晶したんだろうな。そう思うと、とても頼もしくて嬉しくて、思わずホッペタがほころびました。
  
 人が生きていく道程って、獲得すると同時に捨てる行程でもあって。それは当たり前なんだけど。
 その道程にあって、自分の心がどのように形を変えていくのか、そのことに誠実で鋭敏な感覚をもち、時々の心の声に率直に耳を傾けられる森山未來という人間って……。うん…、ああいいやつだ、やっぱり目が離せないよ。