11/21東京楽〜キャバレー感想1

 クリフの歌!いままで聞いた中で最高によかったです!マチネもソワレもともに!
 ぐんぐん引き込まれた。おまけにキレのある表情豊かな動きで、ほんとうっとりです。
 今日は、皆さん歌がほんとにステキだった。
 千秋楽は、私、初めて、クリフとサリーの心の通いを2人の生身の演技そのものから感じました。とても切なかった。ただ、「台詞」つまり台本の「台詞」言語の所々に、その2人の舞台上の視線や声の温度や涙ぐむ目や近づく手や、そういうものよりもほんの少し冷めた温度を感じるのはどうしてかなあ…。
 彼らが舞台で交わす言葉の温度と目線と距離感の方が、ずっと近い。多分これは松尾さん自身の感性なんだろうな。男女の恋愛感情に少々冷笑的な視線……。でもまあ、今日はあまりグチャグチャ考えずに、ともかく私は2人を見ていてちょいと涙が出そうになりました。


 でも実は、クリフとシュナイダーさんの、心を赤裸々にしたシーン。
 このシーンの底力の方に、クリフとサリーの別れ以上の重みを感じて、ずどんと打ちのめされてしまうんだなあ。
 シュナイダーさんの歌声と滑稽で哀しい言葉の数々に、どんどんと自己の存在の無力さをかみしめていくクリフ…。ここであぶり出される彼らの「現実」は、そのまま観てるこちらに存在意義を問い詰めるような迫力…。



 クリフは異邦人(ストレンジャー)として人間関係を虚構に築き、異邦人としてその虚構を破壊する。異邦人、それが彼の存在理由なんであって。
 夢の中ではそのことを忘れていた彼は、最後になってようやくそれを自覚する。
 この辺りの、物語と舞台の虚構の繋げ方、これはとても見事だと思った、です。
 夢から覚めることでしか物語は始まらなかった。渦中にあっては、夢の中にあっては、いくら書こうとしても小説が書けなかった、「書き出せなかった」のも、それはむしろ当然のこと…。彼の物語は、夢が覚めた後にならないと始まらない…。

 その現実はむごいね、ほんと……一連の彼の心の葛藤の後、訪れる「Willkommen」の歌、「ようこそ、ストレンジャ」…。自ら彼が歌うこのフレーズ。ストレンジャーは彼。迎えられたのは彼。
 実は、彼が全てを見ていたようでありながら、同時に全ての視点は最初から彼に集中していた…。MCの視線さえも。
 もしかすると、MCは、クリフ自身の分身だったのかもね…。