『Fabrica[10.0.1]』@1/27ソワレ

 漠然と想像していたお芝居とぜんぜん違ってびっくりしました。
 映画監督として熟練の仕事人たる本広監督が、こんなに若い匂いのする舞台を創られるとは、正直思いませんでした。まるで、本当に大学の劇団みたいな、そんな作品。淡々とした日常を題材にした舞台構成は、平凡といやあ平凡。でも、これだけ力のある役者さん達が演じると、こんな風になるんだ、と納得。
 装置のない舞台に、白い箱でセッティングをしていく様子、ちょっと違うけれど、ヨーロッパ企画の『12人の追い抜けないアキレス』を思い出した。舞台上に、12人と12の箱だけがある舞台。舞台転換も全部役者さんがその手でやる、というのは、去年のNODA・MAP『贋作・罪と罰』風だし。合間に、シュプレヒコールのように「みんな眼鏡!」とかって、効果音のように役者が叫んだりするのも、おもしろいです。少しレトロな学校演劇風(苦笑)。
 そう、だからなんというか、日常的でリアルなドラマ設定とちょっと懐かしめの演出手法に*1、とても生きの良い役者さん達の弾ける演技がかぶさって、とても不思議で収まりの良い世界を作っていた。ともかく役者さんの力が粒ぞろいで感心した。キャラも見事に一人づつ立ってたし。
 脚本の高井浩子さんの力かな、女性一人一人の描き方、お見事!そういう人いるよね〜!って人間がぞろぞろ出てくる。笑ってしまうほどのリアリティ(笑)。
 特に、常に深刻に思い詰め若干精神が不安定な美和と、自分に好意を寄せる人を翻弄しその関心を引くために、嘘と内緒話を病的に繰り返す優子、両者の背景にある異質のコンプレックスを対比させる所なんか、ほんと、言うに言われぬむずかゆさ(苦笑)、いやいるんだもん、こういう人。特に、美和タイプ、私がこれまで接した中に、ほーんとにたくさんいましたよ〜。かくいう私も、若干美和要素、有ったと思うな、若い頃ね(苦笑)。
 奈月のインパクトも凄かった。大迫力!うまい役者さんですね〜〜。痛快☆の一言です。一番好感が持てる。言うことはコロコロ変わっても、以前言ったこと覚えてなくても、その時々に両足が地面についていることが感じられる人。良樹に自分を送らせようとした優子の企みを、私と一緒に帰ろう!と阻止する所は、この人の判断力の確かさを物語る。たとえその前後がいくらハッチャケキャラであったとしても。
 一番弱いのは、脚本家〜小説家である雅美。こういう存在は、たぶん書きにくいんじゃないの?どうして芝居のベースを学生劇団にしたのかな〜。最初は、それってずるいんじゃない?と思ったけれど、いや寧ろ、書き込めないブラックホールが必ずできるファクターでもあるよね。だって、どこかで自分を書かねばならないわけです、よ…?いや、わかりませんが(苦笑)。

 
 えっと、ラストのテーマはかなり重いです。それほど明らかにはされなかったけれど、どんでん返しが大小、用意されてたんだよね。母を自ら安楽死させる椎名、その直後にほのめかされる、それが実は芝居であったらしきこと、しかし、母は実際に息を引き取っていて…。
 でもふと思ったこと。そこにもう一つからくりが有ったらどうだったでしょ?くど過ぎるかな?後味悪くなるのは間違いないね…。なんというか、悪人の私は(苦笑)、ついつい最後に姿を消した文雄の表情が、チラリと変わるんじゃないか、なーんて必死に富岡さんを凝視してしまいましたよ。何も変わらなかったけれど…(汗)。淡々と進む舞台に、こっちの気がはやってしまったかなあ。すんません。


 役者さん、上には女性ばかり書きましたが、男性陣にもツボはいっぱいありました。
 文雄は、アントーニオさなんがらのやはり可愛いゲイキャラだったし、永野さんは、腰の低さと自分より弱い者の前だと強気で横暴風(ちょっと小さめ)を吹かせてしまう、絶妙の微妙キャラ(笑)。ムロツヨシさんはなんとなんと双子の弟役☆兄貴と併せて「真実」兄弟、いやあ、そっくり!で、宇田先生そーっくりの良樹、名字はなんと森山くんでした。

 
 エンタな芝居じゃなく、どっちかというと脚本と演出で運ばせる芝居だったと思いますが、170人の小屋だと、これが心地好いバランスなのかな。

 
 会場には鈴木聡さんがおられました。ごーふん、たーったごーふん…が思わず口をついてでそうになった(苦笑)。

*1:生意気な言い方だな:汗