『オイル』NODA・MAP@2003

 女神様のおかげで、かつてWOWOWで放映されたこの伝説の舞台VTRを見せていただけました!嬉しい〜〜!!ありがとござます!*1
 この舞台、ずーっと見たい見たいと願ってたんだけれど、DVDにはなっていないし、やむなく『文學界』2003-5に掲載された、野田秀樹『オイル』脚本をチビチビ読んで我慢するしか打つ手なし、って感じだったんです。それがようやく…(よよよ)。


 なんと言っても、キャストがすごい!

松たか子藤原竜也小林聡美片桐はいり山口紗弥加北村有起哉橋本じゅん

 
 藤原君とコンビを組むじゅんさん、次から次へと役柄を変えつつ登場する北村さん(でも基本は老人!)、とても見所満載で、じゅんさんなんて何だかとってもチャーミング(笑)。藤原君もさすがの台詞回し、見事な演技だったんだけれど、やっぱり、もうなんと言っても圧巻だったのが、松さんです…。いやあ、すごいです…。トランス状態のように踊る松さんの姿も、美しかったし…。



 「正義」の薄ら寒さを、「復讐」のちゃちな陰謀がそれを凌駕することを通してぞくりと描く野田脚本。その世界に、神懸かった彼女が緊迫感を与えていきます。でも、その「正義」も「復讐」も「まがい物」なんですよね、それを示すモチーフが丹念に織り込まれているので、観客自身の内省が、否応なしに呼び覚まされる。脚本がねらったその企みが、松さんの迫真の演技によって、見事に眼前に現れていた。すごい、ほんとにすごい役者さんだわ。
 最初のうちは、じゅんさんの体を張った演技(「なめたらあかん〜」なんて歌ってるし☆ローラ〜♪)や野田さんのアドリブ、いろいろ笑いながら観てるんだけれど、だんだん息をするのを忘れるような感覚に襲われる。ちりばめられる笑いが、ぱっくりと暗い淵を通じてるような気持ちになっていく…。


 さっき言った、「まがい物」を示すモチーフですが、最も端的なのは「神の手」です。ほら、数年前に、東北地方の考古学者で「神の手」を持つと言われた人が、「ここを掘れ」と言えばそこから必ず旧石器時代の石器が出土した、という捏造事件がありましたよね。実際は、発掘の前日に彼がその石器を土中に埋めていた、という……。それが松さん(富士)の行動に投影されているんです(苦笑)。だから、彼女自身、「虚偽に基づく正義」に操られてることが後半、徐々に明瞭になる。でも、それがとても大きな皮肉と悲しさに彩られるのは、特攻隊を逃げ出した弟が、ヒロシマで、そして彼女と語り合う電話口で、命を消失させるということ…。彼女がそこで言う「8月でしたっけ?…私、一ヶ月間違っていた」という独白…。弟の死に、彼女の取り次ぎミス(もちろん事実ではなくシンボリックに)が関与していたかと想像させるエピソード…。
 そしてもう一つ、彼女の「虚偽に基づく正義」を根拠のない成立不能のものと片付けられないのは、そこに暗喩としてかぶせられた、9.11の史実。そんな「正義」が「復讐」の名の下に現実になったつい最近の出来事を思い起こさせる。そんな恐怖も、観客に用意されている。


 脚本を読んだだけではあまりピンと来なかったんだけれど、志願もしないのに特攻兵にされた青年、9.11、この間の『僕たちの戦争』とも重なる要素が各所にありました。
 これは、作品単独の共通項ということではなく、2001.9.11以降の芸術や創作が、あの事件によって、ある問題意識や創作動機を喚起させられているという、時代として同種の空気を共有していることを示すんでしょうね…。


 えっと、ついつい、時間を「未來暦」で考える癖がついちゃってて困るのですが(苦笑)、2003年4月から5月にかけて上演されたこの舞台。未來さんは、元気いっぱいWBの合宿中ですね☆ 渋谷で上演されたこの芝居とは全く無縁のシンクロ三昧の毎日を送っておられたはず。
 それから3年たった2006年、晩春から初夏にかけて、この中の、松さん&じゅんさん&有起哉さんと、MMで共演することになるなんて全く想像もしていない、光り輝く黒こげの18歳ですよね〜(笑)。
 

 野田地図の舞台は、そのテンポの良さと緻密な構成力に、ほほーと圧倒されます。ここに、未來さんがいたらどういう存在感を示してくれるんだろう、そんなことをついつい考えてしまいました。


 いつか、野田地図で共演する、未來さん、松さん、じゅんさん、有起哉さんが、観てみたいな。

 

*1:mさん、本当にありがとうございます!