初春大歌舞伎@大阪松竹座

昼の部 一、源平布引滝 二、通し狂言十六夜清心

 8年ぶりの、孝夫・玉三郎そろい踏みで「十六夜清心」をされるということで、行って来ました、大阪松竹座。いや、孝夫はもちろん今や十五代目片岡仁左衛門ですけれど。
 
 はあ、もうね、美男美女ってこういうのを言うのねって、お手本みたい。色気も茶目っ気も美しさも、完璧なご両人に、ため息しきりでした。

【付記】以下、ちょっと暑苦しいので畳みます。

源平布引滝

 壮絶な木曽義賢の大往生の場面で有名。主役、義賢を演じるのは片岡愛之助。実は、昨日の「新選組土方歳三最後の一日」で、榎本武揚役を演じられたのを見たばかり。
 昨日の榎本武揚でも、その涼しい目元と、さすが歌舞伎役者という堂々たる立ち居振る舞いに感動。そして頑固な土方が、彼も予期せぬまま、一気にその情熱に惚れて行く過程が納得できる見事なまでの感情の緩急に、こちらの涙腺も大決壊だったのでしたが、その役者さんが、今日は、まるで昨日の土方のように、敵の前に仁王立ち、最後大往生の立役を演じられるのです。ぞくぞくですよ!

 見所満載の出し物。大往生の様式美がすごい。大出し物は、襖三枚で組んだ櫓。2枚を柱に、その上に1枚を並べただけの即席櫓。その上で愛之助が「見え」を切るや、襖はそのままにバタンと地に落ち、それでも体勢は崩れず再度の「きめ」。場内やんやの大拍手☆。「松嶋屋!!」のかけ声が大向こうから響き渡ります(これがいいんだよね)!
 クライマックスの大往生は、縁側から階段をうつぶせにダダダと崩れ落ちるという壮絶さ。いやあ、あっぱれ!の大芝居でした。愛之助さん、ちょっと反則の色気と格好よさで惚れました☆。


 愛之助のほかには、待宵姫を演じた市川春猿さんの、瑞々しいかわいらしさがたまんなかったです…。とっても美しいの!ずるいなあ。あ、春猿さんについては、こちらをどうぞ☆

十六夜清心

 世話物、孝夫(いや仁左衛門:苦笑)、玉三郎ですよ。どんなきれいかと思うじゃないですか。しかも希代の傾城十六夜と寺の所化清心との倫ならぬ恋。清心なんて、いろいろ濡れ衣やら女と通じた罪のせいで追放ですよ、心中から始まっちゃうんだよ、たまんないです(笑)。

 確かに最初は、その期待を裏切らない。ご両人の美しい舞と、涙を誘う口説きの場面、うっとり、ひたすらうっとり、きれいすぎるよ〜☆と、もう笑うしか無い場面の連続です。
 ところがどっこい、実はこの芝居、とんでもないスーパー展開、大笑いの大芝居なの!とっても面白かった。この演目は初見だったんだけど、歌舞伎でこんなに大笑いしたのは初めてだよ。楽しかった〜!

 
 えっと、この芝居は古典だし、ネタバレも何も関係ないのでこのまま書きます。長いのでうっとうしい感じだけど、気が向いたら読んでやってください…。


 だいたいにおいて、まずは心中した十六夜&清心です。その涙を誘う心中場面が一転すると、ぷかりと水面に顔を出すのは仁左衛門(その前に、十六夜も救われてるんだけどね)。水も滴るいい男(もちろん水なんて無いけど)、すっかり男ぶりが上がって、おまけにさめざめ嘆いてさ、これぞ色男の典型☆なんだけど、何で嘆いてるかというと、つまりは「死のうと思たけど、しもた、俺、泳げるんやった!」ですもん(あ、もちろん関西弁じゃないよ:笑)。
 で、いろいろ見苦しく右往左往ジタバタしてると、そこに大金をもった少年登場。清心は、その金が欲しくなっちゃいます。動機は、一人で死なせてしまった(と思ってる)十六夜の実家に、供養としてやる金にしたい、という殊勝(?)な考えなんだけれど、はずみでその少年が死んじゃって…。
 ショックを受けた清心は、少年が持ってた脇差しでいっそ切腹しようとします。どうせ水では死ねないんだし…。でもどうしても、お腹に刀を当てることすらできません(苦笑)。ふと刃に指が触れて「イタタタタ」。その瞬間「待てよ…一人殺すも2人殺すも一緒じゃねえか…」。
 …絶句…(笑)。おいおい!お前、ええ加減すぎるやろ!!(笑)それから彼は盗人の道へとまっしぐらなんだそうです。お−い、黙阿弥さーん(原作:笑)。
 でも、このとんでもない男、仁左衛門がはまるんですよ☆。「まあな、こんだけ顔がきれいやったら、根性はガタガタやろ!」みたいな妙な得心が行く(苦笑)。
 
 俳諧師白蓮に一命を助けられた十六夜は、死んだと思いこんでる清心の供養を弔いたいと剃髪します。その尼姿の美しさとか、ため息どころは要所要所にたっぷりあります。着物の裾さばき、手の美しさ、もううっとりですよ、眼福眼福…。


 で、大詰☆ 手に手を取ってご両人が花道を舞台に上がります。
 いよー☆松嶋屋!大和屋!!
 ところがどっこい☆ 2人とも、何と今やたかりゆすりの大強盗になっちゃってるんですよ(笑)。開口一番の玉三郎の声色たるや、場内爆笑です♪ それまでのしとやかな娘風の美しい声じゃなく、だみ声のはすっぱな、とんでもないやり手ばばあ風の声色で(笑)。2人して、恩人の白蓮宅に、金の無心に出かけます。いざとなりゃあかっぱらってやる!の意気込みです…。いやあ、十六夜の肝の据わったはすっぱさ、清心のええ加減な頼りなさ、しかも2人の極悪人なこと…。
 それだけでも十分おかしいんだけれど、実は実は、恩人の白蓮が、清心追放のきっかけとなった盗難事件の首謀者だったことが判明!(清心は盗人の濡れ衣を着せられた)なんだい、お前も盗人だったのか〜!!と意気投合してるうちに、実は2人は血を分けた兄弟であることまでが判明しちゃうのですよ。おまけに、清心が死なせてしまった少年が、実は十六夜の弟で、2人の父親は実は遠い昔に清心に恩を受けていて、清心がかっぱらった金は実は恩返しのつもりで用立てた金で…。

 もうね、何が何だかわかりません(笑)。恩なのか仇なのか、仇なのか恩なのか。この世の中に、確かなことなんて何も無い。それなら生き抜くのが一番さ☆ってメッセージでしょうかね(苦笑)。ともかく[行きててなんぼ」の不屈の精神に満ち満ちてました(笑)。いやあ、やられました。

 この狂言は初めて見たんです。通常は「通し」で演じられることは滅多に無く、十六夜が船に助けられる所で終わってしまうらしい。それじゃあ何もわからないですよね!2人が手に手を携え大泥棒になる☆ってオチが無ければ、これは単なる心中ものですよ(笑)。そういう意味ではとっても貴重な公演だわ。
 いやー、お正月らしい、めでたい芝居でした。
 そうや、人間、生きててなんぼ♪どこでもどんなことしてでも、生きてってなんぼやで!*1

 
 

*1:修二と彰もそう言ってました。あれ?言ってない?笑