富山オーバードホール@4月11日マチネ

 富山駅北口すぐの、とても立派なホール。私は初めての訪問です。
 関西からだと富山は近い。北陸本線で一直線だし車内販売のお弁当はおいしいし。乗車時間は新幹線で東京に行くのとあまり変わらないけれど、ずっと近く感じました。車窓の風景に変化が有るからかな。
 
 で、オーバードホールです。
 とても広く、3階席まで有る客席は壮観でした。ただ、3階は使ってなかったです、2階まで。1階も後方10列くらいは空けてありました。あれは故意に使わなかったのだと思う。客席がきれいに丸く埋まってたもの。
 とても静かな客席。大阪では、グレゴールの無茶食い場面でかなり笑い声が起こってましたが、そこの反応も自制的。最後に幕が下りても、しばらく皆が固唾を呑むという感じの静寂が有りました。まあ大阪の爆発するような喝采も楽しかったけれど、これも悪くないです♪

 
 で、肝心のグレゴール。下にも書いたように、彼は一週間前の大阪よりも、またまた挑戦的にカフカを飲み込み続けていました。
 
 以下、ネタバレ有りです!但し、順不同。

 
 

  • 何度聞いても、登場人物の心情を伝える音楽、それと役者さんの動きのマッチングが絶妙です。主任登場シーン。ママの語りかけシーン。下宿人の一連の音楽。グレタの荷物運びの音楽。どれもこれも、目をつぶってても動きが伝わるような気がする。
  • 「毎朝午前四時に起きる」「しかも自分で選んだ」が、今まで聞いた中では最も平静な口調でした。表情も淡々としていた。私、これ好きかも知れない。虫になってから、ようやくいきなりテンションが上がるのも、ハレとケが逆転する感じでおもしろい解釈だと思う。
  • 今回も有りました。手を使わずに(手は蠅のように前でうごうごしてる)両足同時にジャンプして次のバーに飛び上がるグレゴール。しかも、あまりにも自然。大阪では一瞬の緊張がその時に舞台を支配したんだけれど(私は少なくとも凍った!)、今回はあまりにも自然。ほんとに普通にやってのけました。す、す、すごい。
  • 前半の、家族の戸惑いを聞いているグレゴール。ずっとビクッビクッと微かに痙攣してるの。何も動きのないモノトーンな場面なのに、引きつるように動く彼の小さな脈動が、舞台全体に不思議な緊張を与えていて、わああ〜〜〜となりました。
  • 壁にしがみつくグレゴール。ほんっと微塵も動かない、微動だにしない。それだけに、次に左足を奥のバーにかけて「ぐいん!」と身体を捻るのが生きる。静止と脈動のリズムがすごい!
  • 今回、永島パパがすごく横暴だった!…おおお……!いいぞゥ〜〜〜!!(by グレゴール) 何せすごく横暴だったんですよ。いいねいいね。その調子だ!動きは少々躊躇いがちでも(失礼!)、今日のパパの横暴振りはナイスだったです! カテコでも永島さん、普段に増してにこやかだったかも(勝手な解釈!)笑。
  • バグってるグレゴール。「なにとぞ」で遊びすぎです(笑)。な〜〜〜(溜息)な〜〜〜(泣き声)な〜〜〜(溜息)…………ってぐだぐだになって、最後に「なにとぞ!」って気張ってる(笑)。あの場面は、久世さんの反応がほんとにおもしろいですよね!臨機応変に大袈裟に反応しておられるのは、ほとんど久世さんと福井さんくらいかな(笑)。ありゃあ共演しゃ泣かせでしょう!
  • ももも、もっと、もっともともとっともっっともっと。これも暴走です(笑)
  • 大阪でも一度見たんだけれど、今回はっきり確認。両手を、手の甲を併せるようにして顔の前に持ってきます。確かに、甲殻類の一番前の手(?足?)ってそんな感じですよね!
  • グレタに話しかけねば!→ 落胆。 ここで、ものすごい音を立ててバーの一段目?二段目?から崩れ落ちました。右肩を下にして。頭がべしゃ〜〜〜っとつぶれ、次に顔を上げた時には、右の髪のセットが崩れて、少し額に影を落とすくらいに前髪が乱れていたのが何とも美しく……。とんでもなく可哀想なのにとんでもなく美しいという……。
  • 私の、通路を挟んで右側に男性が二人座っておられたのですが、二人とも、ものの見事にグレゴールに釘付けでした。あの二人の感想聞いてみたかったなあ〜と。
  • ともかく、無駄な動きが全く無い!というか、無駄な動きを入れまくってる??明らかに、大阪よりもリズムと尺と身体の可動性に余力ができていて、その余白を空白のママに置いておかずに、そこに鮮やかな動きや台詞なら感情を加味してます。
  • 例えば、どこだっけか。天井のポールに後ろ手に腕を回して仰け反るように天を仰いでいる場面(だと思うんだけれど…ちょっと自信がない)。両足はそれぞれのポールを踏ん張って、そのまま体勢を移動させる。その時に、宙に浮かした両足、右足だけ一旦中央付近まで旋回させてもう一度右のバーに映して動きに勢いと美しい流れを作り出してました。そんなこんなも、次の拍までにできる表現に確信が有るからこその動作ですよね……。
  • 下宿人に攻撃を挑むグレゴールは、今日はとても弱ってました(涙)。弱ってるのに攻撃する。自分の存在理由を賭けて……。でも、そこにいる全員に否定されてしまう。
  • グレゴールの生きる希望というのは、家族が自分を忘れないでいる、ことと同義だったんでしょうね。
  • 彼は家族をそれ程には尊重してなかったけれど(これについてはいずれ改めて)、家族から自己が尊重されることは常に期待していた。その関係が逆転した状況でも、彼の自我は、家族の尊重・注視を期待し続けることで仮の生を保っていた。となると、グレタが「あれを兄とは認めない!」と言い捨てた時点で、グレゴールの存在は消えざるを得ない。だって、そもそも彼に自我はなかったんだから(かなりアイロニカルな意味で)。カフカはそのような自我の有り様を嘲笑して「変身」を書いたとも言えるかと……。そのあたりは太宰的でも有るのかな。
  • 何回聞いても、母の言葉がむごいと思うよ。ひどいと思うよ。一番無責任で残酷なのがあの母だよ……。グレゴールはそれでも母を求める。首を傾げて母が発するはずのない声を求め続ける……おおお(涙)。あの辺りの演出は、バーコフのものなのか、未來さんが敷衍したものなのか、どうなんでしょうね……。あの場面に泣かされながらも、イギリスでも同じなんだろか?…と冷静に考えてる自分も否定できません。
  • カテコ。2回目からスタオベでした!
  • 今回は珍しく、ほんとに珍しいというか私は初めて聞きましたが、穂のかちゃんがほんの少し噛みました。今までずーっと誰よりも完璧に誰よりもきちんと台詞を語っていた穂のかちゃん。何かリズムが違ったのかな。でも、別にそんなに気になるような程度じゃなく、何度も聞いてる私みたいな人間だからわかる程度の……(ごめんね!)。でも、カテコのほのかちゃんに何だか胸がいっぱいに。いや気のせいかも知れないんだけれど、カテコの度に深々と、誰よりも長く最後の最後まで、小さく何かを呟きながらずーっととても丁寧に頭を下げ続けておられたんです。
  • その誠実で直向きな姿に、おばさんはもう涙腺決壊です。観客一人一人に深く何かの気持ちを伝えようとしているのがはっきりわかったので。「ありがとう」いっぱいかもしれない「台詞とちってごめんなさい」かもしれない。わからないけれど、彼女のその姿を見て、一観客として嬉しくて涙が出ました。そう考えると、3回目のカテコ、上手から満面の笑顔で駆けだしてきた未來氏、下手先頭で出て来るはずの穂のかちゃんに、上手からいっぱいの笑顔でエールを送ってたのかな〜?なんて、またまた勝手な妄想(笑)。
  • 最後のカテコでは、手を大きく振って上手への退場でした。大阪では下手にはけてました。これも気分次第?

 
 また、思い出したら勝手に追記しますが、取りあえずこのあたりで……。
 はあ。いよいよ泣いても笑っても明後日で終わりか。何だか信じられないです。長い歴史の一部を切り取ったような舞台だったせいか、ほんとにこれで幕が下りるという気がしないよ……。この舞台は、いろんな意味で忘れられないものになりそうです。