東京楽(3/22)続き 

 東京千秋楽も、彼にとっては一つの通過点なんだということを、強く感じた今日の舞台でした。
 昨日と一日異なるだけで、様々な変化が彼の表現の中にちりばめられていて、またまた目を見はりました。身体が表現する感情の起伏がより先鋭化され、凄まじいグレゴールの生命でした。

 あ、先にカーテンコールの様子を書いておこう。
 カーテンコールは、私は2度目から立ちました。後方端っこの座席だったので、それ程ご迷惑にはならないかと思って……。チラホラ立ってる方おられましたよ。3度目くらいからはその数も増え、最後は全員のスタオベ、バルコニー席の人達も立っておられました。誰かが「ブラボー!」って叫ぶ声も聞こえたような。
 遠くからだったので表情まではよくわからなかったのですが、スタオベを目にして、何だかもぞもぞ挙動不審な未來氏。俯いたまま後ろに手を組んで、まるで足下の石ころでも蹴ろうとしてるのか?という風情でとぼとぼとはけていくので、私の周りの方々は笑っておられました。次のカーテンコールでも、元気に飛び出してきたのは良いのですが、お辞儀をみんなでした後、しんがりではけながら、斜め後方に漸動……、一番奥のカーテンの隙間からはけて行かれました。何なんでしょう、最前列で立ってるお客さんの前を通るのが恥ずかしいのか?(苦笑)。
 久世さんが、華やかに大きく手を振って去って行かれる姿に、ふとメレディスお母さんの姿を思い出したりしました。やっぱりスターさんです!それから、2回目のカーテンコールかな、走りだしてきてグレゴール兄さんの上手側に回り込む穂のかグレタが、にこにこ笑ってぺちゃっとお兄ちゃんにくっついたのが、とっても可愛かったです♪
 

 さて、舞台本体です。
 以下、ネタバレ含むのでご注意ください!
 そんなに長く書くわけではないし(申し訳ないので)畳むのはやめておきますが、ネタバレ回避の方はご注意ください。
 
 
 
 
 とても印象的だったのは、下宿人の闖入以降のグレゴールの心情変化、その起伏がとても先鋭的に表現されていたこと。明らかに昨日と違うのは、彼の姿を見せまいと女性二人がスカートで隠す、その隙間を抜け出てくるグレゴールが、下宿人を追い払うために、まるで最後の力を振り絞るかのように、猛スピードで前進する、その姿です。昨日は、するするすると、こっそりうかがうように前進していたのに、今日のスピードはすごかった。だので、グレゴールの異動距離が大きいために、追い詰められる下宿人、隠そうとする母と娘、明らかに舞台の尖端に追いやられてましたよ。
 でも、その渾身のスピードが有るだけに、グレタが「あいつを始末して!」と言い放ってからの、体も心も衰弱して行く様が際立ちました。その力ない様といったら、指先で華麗に立つことができず、手の甲を地面にぺしゃっとくっつけて、身体の半分が地面に着くかのように傾いてしまって……そこに表現される悲哀の大きさは、グレタの声色は昨日と全く変わらないのに、その豹変振りの残酷さをより際立たせて、ドラマの奥行きを深めることになっていました。
 明らかに未來氏が舞台をコントロールしてる……。
  
 声色も、昨日と違うところがたくさん有ったし、ああこの人は、ほんとに毎日毎日挑戦し続けてるんだなあ……それを痛感させられました。
 
 今日の舞台を見ながら、このザムザ一家の有り様を通してカフカが描こうとしたこと、その私なりの解釈の方向が定まりつつあることも感じました。それは、大阪公演が終わる頃ぐらいに少しまとめて書いておこうと思います。あまり心温まる解釈ではないので、そんなの書いてもどうなのかな、とも思いますが(苦笑)。