東京楽5/20マチネ(@東京グローブ座)

 終わりました。
 東京は、とても日差しの清々しい、きれいな初夏。


 カーテンコール。
 やっと、スタオベができました(涙)。がたがたっと立ち上がる客席を見て、ビックリしたように笑って、とてもとても嬉しそうに手を挙げてくれた彼。光り輝いて見えました。いや、ほんまに。
 ああ、やっぱり、昨日も立ちたかったな…(悔恨)。

 ご挨拶も。
 鳴りやまない拍手に、大きな手振りで「静かに」のポーズ!一瞬で静まる客席。それにまた驚いてる未來さん(笑)。静かになったらなったで困っちゃうのよね♪ はにかんで、またまた一歩後ろに下がって、でも誇らしげに語りはじめます。
「なんとか千秋楽を迎えることができました。これも皆さんのおかげです。これからまた地方公演がありますので……」ここでけっこう長くつかえていて、客席からくすくす笑いが漏れ、再度意を決して(笑)、「よろしかったらまた来てください!」 こんな感じだったかな。


 挨拶が終わっても鳴りやまぬ拍手。再度出てきた未來さん、手をおでこに当てて誰かを捜している様子。それを真似して、岡田さんも、陰山さんも、おでこに手を当てて捜してます(笑)。みんなニコニコ。


 未來さん、手をぱたぱたと合わせながら、「えっと…。白井さ〜〜ん!」と声をかけます。客席も一斉に拍手拍手拍手!……現れず(苦笑)。おられないのね。諦めた未來さん「たぶん、どっかに行ってしまったのでしょう(かな?)」と言って、最後にもう一度「ありがとうございました!」とお辞儀をしてくれて、こちらも本当にありがとうございました!の気持ちで一杯に。
 そうだ、下手側にはけるソニンちゃんが、手を振って、スカートもヒラヒラと振ってくれて、とってもかわいかったです!



 ほんとに、いつもながら声も小さいし、つっかえてるし、照れてるし。でもソニンちゃんも岡田さんも江波さんも、みーんな優しい笑顔でそれを見守ってらっしゃって。アンダルシアの村では疎外されていたレオナルドも、このカンパニーの方々の中ではちゃんと愛され頼りにされていたことが、よーくよーく伝わってきました。
 皆さんにブラボーです。本当に素晴らしかった。ありがとうございました。


 
 えっと、舞台の中身について、取りあえずとても心に残った一点だけ書いておきます。また追加するかも知れませんが。
 地方公演はまだまだこれからなので、畳みますね。




 


 一番驚いたのは、レオナルドが昨日と違うということ。
 

 焦燥の、荒れ地を駆け回るフラメンコを踊った後、家で妻と語らうときのことばの数々、間の取り方。息のつぎ方。台詞のかぶせ方。
 ・・・・違うんです。


 レオナルドが、妻の言葉を聞いている。


 茨やカラタチの実を地面にぶつけるように、イライラと音のつぶてをぶちまけていた、これまで私が見てきたレオナルド。
 でも、今日、眼下にいるレオナルドは(2階席だったんです:苦笑)、苛立ちながらも、ガラスのように危なっかしい優しさを言葉の端々ににじませていました。
 馬の蹄鉄も今行ってきたも小麦の仲買人も目方を量るのに時間がかかってかかっても、そっぽを向いてバラバラバラッと言い放っていたレオナルドが(あくまで私のイメージですが)、首を微かに妻の方に傾げ、そんな嘘のような自分の言葉を厭うように、でもどこか諦めたように、心の動きを声に載せて妻に語りかけてました。


 泣くのか?やめてくれよ、も、どこか違う。

 
 ちゃぶ台返し。倒れた机がぶつかって倒れてしまう少女。
 その姿を目にとめたレオナルドは、フラリと身体を揺らがせ、慌てて立ち上がった姑が座っていた椅子の背に手を置いて、一瞬動揺したかのような心の動きを見せます。そのままぷいっとそっぽは向いてしまいましたが…。


 何より驚いたのは、宴会でのレオナルド。 

 
 妻にダンスを誘われたレオナルド…。
 にっこりと、寂しく、はかなく、微笑みました…。はっきりと目元が笑みを湛えました。昨日までは、微かな笑みをほんの少し走らせるだけだったのに…。
 そして、妻を見て、2人手をとって、下手で優雅なダンスをヒラヒラと踊る時、ああ、レオナルドの口元がつぼみのようにほころび、白い歯までこぼれました…。その笑顔のきれいで可愛らしかったことと言ったら…(絶句)。愁いを帯びながらも水のような微笑みを湛える目がとんでもなくきれいで、彼の孤独な心が抱える、寂しさと優しさと哀しさが、一層際立ったように思いました。
 え〜〜!この人、こんなに綺麗だったっけ…? って、思わず自問自答してしまったくらい。いや、さんざん「キレイだキレイだ」って言ってるくせに今更なんなんですが…(苦笑)。


 その後、妻に乾杯のグラスを向けられたときも、寂しげにやさしく、はっきりにっこり微笑んでました。その微笑みを前に、妻は嬉しげに華やいで、何かを一生懸命レオナルドに語りかけています。それを微笑みながら聞いてるレオナルド…。でもそこに、少女が妻を連れにやってくるのです。引き裂かれる2人…。
 

 ああ、そうなんだ。
 レオナルドのキレイな微笑みが、こんなに大きな波紋を投げかけるとは思わなかった。
 舞台の上にも。私の心にも(苦笑)。



 以下、とんでもない妄想ですが、なんだか書かずにいられないので書きます。ただ、変なこといっぱいだと思うので、どうぞ適宜スルーしてくださいまし…。




 直前に妻の嘆きを聞いて、目の前では花嫁が嫁いでいく。レオナルドは彼なりに、花嫁を忘れること、妻を愛することが自分に残された唯一の選択肢だとわかっていたはずですね。でも、宴席がつらい場であることには変わりはない。間歇泉の様に彼を襲う葛藤の情を冷ますため、彼は宴席を抜け出して馬の手綱を引いたのでしょう。風が心を鎮めてくれる。
 花婿が言うとおり、ひとっぱしり馬を走らせ、戻ってくるつもりだったはずです。


 ただ、宴会の席で、彼の微笑みという、小さな変化、ささやかな優しさに触れて心浮き立つ妻は、彼の姿がしばらく見えないことにも、過敏な反応をしてしまう。いま自分の手にあるほんの小さな幸せが、玻璃のように壊れやすいことも、レオナルドを愛する妻はよくわかっていた。必死に夢中になってレオナルドを捜し求める妻…。
 レオナルドがいないという不安は、彼女の判断力を狂わせ、花嫁にレオナルドの所在を尋ねるという軽挙に走らせた。一気にその不安が花嫁にも伝わってしまうことに、妻は気づかない。
 レオナルドがいない…。衝動的に宴会の場を抜け出す花嫁。結婚するということは、永遠にレオナルドを失うこと。その事実が、初めて現実のものとして花嫁の心に大きな影を落としたのかもしれない。
 彼を捜す2人の女。


 馬で周囲を一巡りし、戻ったレオナルドを待っていたのが妻だったら。そう、何も起こらなかった。レオナルドは恐らく妻への優しさを増し、笑顔でダンスを踊ったでしょう。乾杯のグラスを重ねたでしょう…。


 でも、先に見つけたのは花嫁…。それが宿命。
 アンダルシアの乾いて熱い空の下、太陽の下。馬を引く凛々しいレオナルドの姿は、花嫁の情熱に一気に火を付けたに違いない。レオナルドを愛してる!
 レオナルドだってそう…。いつだって馬が勝手に走り行く先は、同じ花嫁の家。でも、もちろん花嫁の姿を見ることはできない。空(くう)を見つめて大きな喪失感を確認するだけ。だのに今日、その馬が走り着いた所には、オレンジの花飾りを付けた花嫁が自分を求めて立ちつくしている…。夢かと思うよね。かけよって抱きしめるしかないよね…。



 ああ、後はもう手に手を取って、まろぶように馬に再び手綱を付け、はずした拍車をつけるのももどかしく、馬上にひらりと飛び乗るしかない。この空の下には、自分たち2人しかいない!



 今日の演出、これまでも試しておられた中の一つだったのか、それとも今日初めて生まれた新しい姿だったのか、それは私にはわかりませんが、でも、想像力に満ちて、とてもとても余韻が残りました…。レオナルドを巡る、妻と花嫁の心情、そして宿命のむごさが、まざまざと鮮明になって。目の前のロルカの世界がぐいっと迫った感じがした。メタルマクベスを見たとき、シェイクスピアマクベスの世界がこちらに迫ってくるように思ったのと、少し近い感覚。迫り方は違うんだけれど。


 まだまだ、変化していくのかもしれません。白井晃版「血の婚礼」。そんな予感が強くしました。


 そんなこんなで、今日もしばらく席が立てなかった私でした(苦笑)。