5/5ソワレ(昨夜の回想…)

 一日姿を見ないだけなのに、あの美しい姿をまた目にしたくてたまらないです(苦笑)。
 今日(5/6)は朝からさっそく仕事、なんとか昼間はアンダルシアのことを考えないですんだんだけど、ふとした隙間に、ふと頭を過ぎるのは、昨夜、有り得ない間近で見たレオナルドの姿です。
 でも、あまりに眩しすぎて光の陰にしか見えなかったんだけれどね…。
 だって、階段に腰を下ろして語る彼と、ほとんど膝つき合わせて座ってるような位置ですよ…。強い声が、そのまま聞こえてくる。冷たく暗い焦燥の目が、眼前をビームのように走る。荒々しいフラメンコを踊った直後、首筋や顎に銀のしずくがポタポタ落ちるのに、表情は内に激情を押し込んで冷え冷えと冴えて…。でも、直視できない(苦笑)。


 以下、いろいろ支離滅裂に書き殴ってますので、畳みます。



 
 フラメンコの最後、翼を広げたペガサスが着地するように地に降りる瞬間、大きな真珠の滴が舞台上に飛ぶのが見える。
 森の中、求め合い拒み合い、涙を流し叫び、自嘲的に笑うレオナルド。花嫁と抱き合い唇を重ね、お互いの身体を預けて言葉をあびせる。足にすがり、突き放し、払い落とし、それをまた抱き起こして唇を求め合い、そして最後に硬く抱き合って、二つの身体を一つにせんとばかりに強く互いを引き寄せあう…。そんな圧倒的に渦巻く激情、どうにも止められない本能のままの一部始終を、見ているのか、感じているのか、どちらなのかも定かじゃない精神状態で、ただただ息をするのも忘れて見守るしかない…。
 花嫁が、レオナルドの顔を強くなでさすり、「ああなんてきれいなの」という時、こちらの心もズキンと波打ちます。だって、本当にきれいなんだもん、レオナルド…。


 昨夜、その最後の、まさに一線を越えようとするかのように抱き合う2人のもとに、花婿が登場するそのシーン。花婿の形相もこれまでに増して正気を失った狂気の顔でした。怒りに震えて後も先もない。般若のような形相…。その声を、じっと花嫁の胸に顔を埋めたまま、体中に染み渡らせるかのように覚悟を決めていくレオナルドの姿が、やっぱり目の前にありました。時間をおいて、ゆっくりゆっくり立ち上がり、ポケットに手を入れて、顎を挙げ、花婿を見るレオナルド。徐々に2人が歩を近づけ、花嫁が震え、悲鳴を上げ、2人の姿が一つに重なり、その瞬間の暗転…。


 花婿とレオナルド、その時にはもう2人とも、一つになって死の影に絡め取られていたんですよね。後は2人は黒い影に吸い込まれるだけ…。
 残された花嫁は、因習の土地に戻るしかない、そこに戻ることしか選択肢はない…。狂ったように自己弁護の言葉の数々を、震えながら訴える彼女の姿……。花嫁も、もう生きてはいない。それは、花婿の母とておなじ。かつて夫と息子を殺され、そしていま最後の息子を殺された女。その側には夫を失ったレオナルドの妻。そして、花婿とかつての恋人をともに失った花嫁。彼女たちは、血を腐らせて生を続けるしかない。すべては繰り返され循環する。
 名を持たない花嫁も、やはり循環する土地の因習の一つの歴史でしかない。レオナルドと逃げたものの、生きながらえてしまった。その残ってしまった彼女には、因習の中に、再度自らを認めてもらうよう近づくしか道は残されていない。やはり、窓に釘を打ち付けて息を潜めて生きること。それが土地、それが壁、それが血…。


 乾いたアンダルシア。一滴のしずくに種をはぐくむ女の宿命。徹底的にそこでは「水」が外の存在として析出される。
 例えば、木々に囲まれた土地から来た花嫁の母。淫売とののしられ、その土地に来て枯れてしまった。婚礼に集った海辺の親戚達、異邦人として扱われる、馬を怖がる民。過度の水は異端の標。濁流は恐慌しかもたらさない。
 土地に疎外されたレオナルド。アンダルシアには過剰な、したたる水、深い底なしの淵を心に湛えた、あまりにも美しすぎる男だったんでしょう。冷たいレモン水を、あおるように飲み干すレオナルド。水と風に彩られた男。
 フェリックス。これも唯一明かされる家の名。「殺人の血筋」というのは、恐らくそれも何かの記号に思える。水と風と木々の香りをサワサワとそよぐ血の流れに染みこませた、異端として疎外される人々を、犯罪の血に回帰させたのかも知れない。因習の根強く残る前近代的社会において、そのがんじがらめの空気に風穴を開けるーーそれは異端へのトンネルを通じさせることでもあるのだけれどーーのは、犯罪と障害を身に持たされた人たち…。彼らだけが因習の縛りを受けることはない。レオナルドが、因習の外部への一つのトンネルだとすると、足を引きずる少女も、もう一つ別の方向へのトンネルを示していたのかもしれない。ただ、それは因習そのものが自らの内部に用意した、死へのトンネル。ともに、危険な因数なんだけれど。水と風の生命力に溢れたレオナルドは徹底して排除される因数、少女は内部に秘められて、時を待って姿を現す宿命的な装置。それが陰ーー冥界ーーの象徴としての「月」*1…。


 この舞台上の未來さんは、危険すぎるほどに美しかった。キレイすぎて、近づくとこちらが破滅するような、特別で孤高の周囲の何にも染まらない光を放って、その場に存在していた。そういう意味で、脚本の心にとっても、舞台の装置の上でも、森山未來という人はレオナルドそのものだったと思う…。年齢だとか、そういうリアリズムなんてどうだってよくって、象徴的に、身体的に彼はそれを具現化してたと思う。というか、時に超えていたかも知れない…。


 なんだか訳のわからないこと書いて、ぐちゃぐちゃなんだよ、もう!なんですが、ともかく、今週末、もう一度会うのが、待ち遠しくてしかたない。そういうことです。もうやけっぱちだよ!(苦笑)

*1:そして恐らく,これは性の隠喩でもあるはず…