『僕たちの戦争』「感じたこと」その2

 実は、未來さんの新しい作品に出会うたび、時々というか、かなりの頻度で思うんです。ああ、もうこんな日記辞めちゃおうかな…って。今回も、そう(苦笑)。

 この人は、プロの役者として表現者として、1つ1つの仕事を極限まで突き詰めている。自分が納得する、気持ちよい満足できるところを目指してとことん突き詰める。その結果、私たちは圧倒され、感動し、その世界に引き込まれる。
 すごい人だ、とのみ思う。ことばは文字はいらんだろって…。



 そうなんですよ。こんだけ書いといて何言うてんね☆なんですけど、実は強烈にそれを思うんですよ。
 でも、気を取り直して、行って見ますね(苦笑)。



 さてさて、未來さんは、健太と吾一という全く背景の違う2人の人間を見事に演じていて、その双方ともに素晴らしいんだけれど、私は、自由自在で奔放で、感情豊かで猿山のお猿みたいにヒラリヒラリとどんな動きも好き放題、そんな健太が好き。未來さんの心と直結した表情と動きの自由さは、健太の表現に本領発揮☆って感じがした。



 ということで、まずは健太から。


 自分を押し殺すことが習慣化し、目の前の小さなことに一喜一憂しない、少なくともそれを表に出さない、そういう戦時中の人間の中では、表情がころころ変わって、素直に喜んだり怒ったり悲しんだりはしゃいだりする健太は、とっても魅力的だったろうなと思う。文子さんが一日一緒にいただけの健太に心奪われたのも、よくわかるなあ。

  • キヨさんの家で、楚々とした文子さんを見て、目を丸くしてウハウハ喜んでるお調子者の健太。
  • 雨戸を閉めてくれ!って言われ、「はいはい」なんて暢気に縁側に出て見上げた空に敵機来襲。「ええ??ええええ??!!!」って素っ頓狂な顔してびびってる健太。
  • それでもまだ事情が飲み込めなくって、位牌を「俺が取ってきます!」と決めた自分に、「予想以上にかっこよかったんじゃねえの〜俺!」なんて自画自賛で鼻歌でも歌い出しかねないお気楽健太。
  • でも仏壇の前で、ようやくはたとタイムスリップに気づき、叫び声を上げるネズミ男健太。
  • だいたい「上下関係」なんてものに無頓着で育って来た健太。逃亡兵として隊に連れ戻される途中の人間とはおよそ見えない。横柄な態度で、トラックにチンタラと乗っかってる,そのめんどくさそうな風情。
  • 真っ白の制服に身を包んだ、自分と同じような年代の人間がズラリと並んだ兵舎を引きずられながら、初めて自分が放り込まれることになる「環境」を意識する、その時のギクリとした表情。
  • 飛行服を着るのにやっさもっさしながら「石庭吾一、飛行兵長」とブツブツ自分の名前と身分を復唱する声。訳わかんなくなって両手両足を爆発させるパニック健太。甲羅を下に仰向けに転がされた亀みたい。
  • でも、ボコボコに殴られても久保田と古屋に問う「俺は一体誰なんだ?」という言葉と共に、「健太」を一旦封印して「吾一」でやっていくしかねえことに考えを切り替える、そういう健太の要領の良さもうまく表現されている。
  • 操縦席に座って「ぜんぜんわかんねえ!」と言う台詞回し、妙におかしい。ここで初日は笑いが起きました(笑)。
  • 「起立」の仕方がなってなくって、全員整列のはずなのに、一人列を乱してる健太の立ち姿。
  • 久保田と2人で語り合う健太。内田滋さんもいいですね。ホントに文字通り、目をキラキラさせて特攻隊への憧れ、嘘偽りの無い「武者震い」を見事に表現しておられる。その微塵も曇りない表情を前に言葉を失う健太。ここは、内田さんのあの表情無しでは幾ら未來さんが茫然とした表情を浮かべてもダメだったろうな。で、いなり寿司…。泣きました(涙)。特攻隊に憧れるなんて全く理解不能だけど、故郷を家を懐かしく思う気持ち。健太が初めて過去の若者と共鳴した瞬間。
  • あまりの恐怖に、総員起しで八つ当たりを始めた山口に、完全にキレてしまった健太。山口を挑発する口調と姿勢がむちゃくちゃ憎たらしい。
  • でも、桐谷健太さんもすごい役者さんですね。見事に山口だった。
  • 山口に表に出ろ!と言われ、兵舎の外に後ろ向きに仁王立ち。表情は見えないのに、背中が山口を挑発してる。恐いもの知らずの健太なんだけど、単にそれだけじゃなく、腹を決めたら前しか見ない、そういう姿勢がヒシヒシ伝わる。
  • 「だって俺、未来からやって来たんだもーん!」って台詞もすごかった。で、その後「ハイッ!」と言いながらヒラリと後ろに飛ぶ健太には参った。いや、ここスローモーションで見ちゃいましたよ私(笑)。お猿さんみたいだったよ。牛若丸の八双飛びだよ。
  • ここは台詞回しもすごいです。「覚えとけ!」という上ずった声と全身の動き。あくまで軽薄に、でも、それだからこそパニックに陥っている山口の恐怖を倍増させる効果がある。ワナワナ震える山口の表情と相まって、ここはものすごい名場面だと思った。WB5話の、進藤vs立松丁々発止を思い出した。
  • 次の日の、朝ご飯をお行儀悪くかっこむ姿、「やっちまったもんはしかたねえんじゃねえの?」。性格変わりましたね…と言われて「ん?ん!」と言ってる横向きの姿が、いたずらっ子みたいで幼くって、ほんとに金絲猴みたいでしたよ(笑)。吾一とは絶対に別人ですよね。
  • 古屋と2人教官室に呼び出され、特攻隊選抜を告げられる。事態を理解するに連れて、徐々に「真顔」になっていく。心の動きと共に表情が刻々と変わる。最後に兼子に詰め寄られた健太の睫毛がやけに長い、…なんて変な所にドキッとしたり(苦笑)。
  • 鬼塚教官を茶化してはしゃぐ健太&古屋&樋口。大口開けてバカ笑いの健太。行けない行けない!なんて尻込みしつつも何だか貧乏くじ引いちゃうところも、おっちょこちょいでおかしい。
  • 文子さんを思い出して、デレデレにやける健太(笑)。
  • 鴨志田と夏見村へ。車中で「後悔してないのですか?」と鴨志田に尋ねてたしなめられる健太。「申し訳有りません」と膝を揃える姿が、いつもの未來さんです。ちんまり座っちゃうのよね。
  • 防空壕堀り。健太の威勢よさに引きずられる鴨志田がチャーミングです。健太って、取り澄まさない無邪気さが溢れてて、ほんとに魅力的だよなあ。
  • でも、文子さんに「死なないで」と言われて息を呑むその表情は、一瞬彼を襲う様々な感情を想像させるに十分で…。
  • 古屋がまず回天に乗り込むために海に出る。それを見送る健太の、ただただ目を見開いて強く念じるしかない、祈り。目だけで伝わる想い。
  • 田淵中尉が2人連れて行く!と宣言。スルスルっとテーブルの下に隠れる健太、嵩低すぎ(笑)。「尾島」なら大丈夫☆と勘違いして、ピカピカ満面の笑顔で外に出てくる屈託の無い表情がかわいらしい。
  • 潜水艦の上で花束を振り回す健太。ここですね、花束の花がぜーんぶ落ちちゃったという場面。
  • 自らを犠牲にして仲間を助ける田淵中尉の、決断からその死までの、あまりに短い一部始終。それを目の前にして、止めようと身を乗り出す健太、一点を見つめて言葉を失う健太、流れる涙を押さえきれない健太…。
  • 同じことをやろうとする鴨志田、ミナミのこと、ミナミに出会う未来の自分、そのためだけに弾かれるように飛び出す健太。彼はずっとミナミだけ。リアリティの話になると、あの愛すべきお父さんとお母さんが出て来ないのはちょっと不思議だけど(苦笑)、でも、ミナミだけ。物語としてはそれでいい。
  • 回天の中で、自ら方向転換を決める。数秒、強く考えて、決意する。決意と同時に右手が旋回のハンドルを回し始める…。常に動き続ける健太の身体、一瞬たりとて停滞しない、流れを作り続ける、あの、未來さんならではの肉体の動きが、健太の想いが走り始めるその速度とシンクロして、渦を巻き始める。一気呵成の、心と身体と、そして言葉。あの表情と、睨むような目と、声と、叫びと…。ここはもう…(涙)。
  • 海流に翻弄されながら、「もうダメかもしんねぇ」という健太。直前の吾一の「いい人生だった」という言葉とはっきり違う健太の声。健太の、声。
  • 海から上がって来た「健太」。突き抜けるような笑顔…。生まれ変わった「健太」が、溢れる感情と魅力を身体にしみ込ませた健太が、もどってきた。いつかのアリスのように。全身を輝かせて、もどって来た…。


 きょうも、ここで沈没…。読み直しもできてないので、きっとひどい文章だと思います。
 
 
【追記】
 吾一篇は、27日の日記、健太と吾一の関係については、28日の日記に書きました。