マシュー・ボーン『白鳥の湖』@神戸国際会館こくさいホール

 連休の臨時ダイヤに翻弄され二本も特急を目の前でやり過ごすはめになり、なんだかピリピリしながら開演ギリギリに駆け込みました。とっても楽しみにしてたのに、こんなざわざわした精神状態で観なくちゃならないなんて…ってすこーし悲しい気分でロビーまでの長いエスカレーターを足早に駆け上がります。
 でも、席について間もなく始まった舞台に、もう何もかも忘れ去りました。私が観る公演は、最後に追加された公演、日本公演のフィナーレ*1、恐らくリピーターと思われる多くの方々の、何とも言えない高揚感に、開演5分前に席に駆け込んだ私も一気に感化されました。わー、ドキドキする…。席は1階21列右サイド。
 開演を告げるブザーと同時に、1羽の普段着の白鳥が素早く係員に誘導されて私の前方の客席につきます。絵のような姿勢とTシャツごしにもわかる美しいプロポーションで、ダブルキャストで今日は舞台に立たない白鳥であるのは間違い有りません。周囲の人の目がその美しい人に集中している間、もう一人、同様に席に着くこれまた美しい人、え?王子?…確認できないまま場内は暗転…。

 舞台に下ろされた幕には白鳥が浮かび上がっています。しばらくしてそれが二重になっていたことがわかります。厚い方の幕がスルスルと上がり、白鳥のシルエットがかかった状態で舞台上に王子のベッドが浮かび上がります。そして、チャイコフスキーの生オーケストラ。そうなんです。神戸公演では生オーケストラでチャイコフスキーが聴けちゃうんです。席について一気に気持ちが昂ったのは、オケピからチューニング真っ最中の調べが聞こえて来るという、コンサートさながらの雰囲気も手伝っているでしょうね。

 ベッド上の小さな王子の姿を観て、今日のキャストリストを取る余裕もなく席に駆け込んだことに初めて気づく有様。わっそういうとキャストは誰なんだろう…。暫くして舞台上には成人した王子が…わっ首藤さんだ!よし!…とすると、ザ・スワンはジェイソン・パイパーだよね、わぁぁぁ、やった〜……。

 予め、アダム・クーパー版ビデオで予習はしていったのですが、実際の舞台はやっぱり違いました。ゥラー!ゥラー!という歓呼の声の迫力、それから白鳥のシューッという息を吐く声…、まるでタップダンスのようにリズミカルに響く、裸足の白鳥達が板を蹴る音。それから、もうなんといっても、完璧な跳躍と空中姿勢とそこに飛び散る汗と……。バレエを論評する能力は皆無なのでもう何もいいませんが、ともかく完璧にコントロールされた跳躍の高さや距離、敢て短く滞空時間長く飛んだり、そうかと思えば美しい静止の状態で微動だにせず…。くらくらしました。

 首藤さんだったので、王子の未來変換は比較的容易かなとも思っていたのですが…、いやあ首藤さんの苦悩と怯えと奈落に巻き込まれてしまって、だめでした(笑)。ビデオ予習の時は、王子未來変換完璧だったのですが…。さすが、4幕の首藤と言われている(とか)だけあります。首藤王子の世界を作っておられました。

 ジェイソン・パイパーは、2幕のザ・スワンはもちろんキレッキレで素晴らしい。いやあ、アダムクーパーに全くひけは取りません。むしろ獰猛な禽類の冷酷さとその裏に潜む情感の濃さという点では、独自の境地を切り開いるおられたように思います。プロフィールみてびっくり、純粋なクラシックバレエ出身じゃないんですねえ…すごいや……もう絶句です…。
 でも、2幕以上に、3幕の黒鳥の踊りが強く心に残ってたりします。魂を揺さぶる黒鳥のあの踊り…。マシューボーンの解釈の秀逸さとダンサーの能力がより調和的な高みを構築するとするなら、この3幕こそがそうなんじゃないでしょうか…。黒鳥の、というかつまりthe strangerの、コスチュームがね、革の黒のスラックス、黒のロングコート、黒のベスト、黒のシャツ…。そのロングコートの裾を翻して踊り狂うんです、跳躍、きれい…。同じようなコスチュームで白のシャツ、グレーのベストを着ていた人*2をふと思い出しました。…こういうパフォーマンスを数々観て来て、ずっと悔しいんだって言うんだろうな。踊ることだけに全霊を傾けている人たちの舞台って…すごい。あの子にもひたすらひたすらひたすら踊って踊って踊らせてあげたいよ、できるものなら…。


 一気にカテコに飛びます。スタンディングオベーションで、もう何度カーテンが開いたかなんてわからないくらい。
 2回目くらいで、ザ・スワンが首藤王子の首筋にキス!ワオ!!でも、まじめな首藤さんは不意を食らって完全にビビって身をそらせておられました(笑)。ちょっと残念だったり(笑)。
 4回目くらいに、王女が舞台袖から誰かを招き入れます。マシューボーンご本人!!だよ、すごいよ〜!……だと思います(笑)パンフレットの写真でしか知らないし、それより少しふっくらしておられるけれど、他にあり得ない、ダンサー全員とオケピからすごい喝采浴びておられるもん…。わわわ。大興奮!
 5回目か6回目のカテコで、突然舞台上天井と、客席サイドに仕掛けられた、金銀の紙吹雪と紙テープが、強烈なクラッカー音とともに発射されます! ダンサーも客席も一気にテンションが上がります。舞台に積もった(相当の量☆)紙吹雪をすくってオケピに投げ込むザ・スワン*3。金銀の紙テープを頭上高く振りかざす客席、最っ高にもりあがりました。


 感想にも何にもなってませんが、ともかくもっとチケ代が安いor次に控える舞台がなければ(苦笑)、完全にリピーターしてました。すばらしかった…。

*1:こういう場合も千秋楽って言うのかな、既定の千秋楽じゃないけれど…

*2:未來さん演ずるエドガー@BB

*3:ジェイソン・パイパーってかなりの調子乗りと思われます笑