『Cut』2005, 4(NO.178)テキスト=宮嵜広司*1、撮影=須藤秀之

 お蔵入りにならなくって良かったです!!*1
 とてもいい記事です。読みながらの手応えもずっしり、読み終わると「満ち足りた気持ち」になります。また、写真がテキストにとってもよくマッチしてるんです。夕暮れの光を浴びて、一つは、殆ど影もなく切り取られる正面像、もう一つは、右に光を浴びつつ左が影に浸食されるちょっと傾いだ半身像。どちらもまさに「向こう側に豊かな物語をしっかりと感じさせてくれる」(p.80)というテキストさながらのショットです。白いカッターシャツをズボンの中に行儀よく入れて、ボタンは一番上まできっちり止めて。いやあ、素晴らしいです。
 達平すらまだ経験していない、ましてやエドガーなんて…という時の涼やかな瞳に不思議な感慨を覚えつつも、記事本文は、エドガーで受けた衝撃を解き明かしてくれるかのような洞察力に溢れているもんだから、ええ、これはこれでとってもタイムリーな記事と言えるかも☆なんて思いました。

 まず、「持てるポテンシャルの絶対量において、圧倒的な存在だと断言できる俳優」なんて言葉から始まる勢いにドキっとします。わわわ、やっぱりそうなの、そうだよねえ、なんて開始早々おろおろ(笑)。でも、すぐ後に説得力ある叙述が置かれているから、いきなり私は真顔に戻っちゃいました。
 『世界の中心〜』の空港場面に触れながら(作品名は出さず)、「ある意味ピュアネスの究極と言える局面を、絵空事ではなく血肉化された何かとして成立させてしまう」ですって。なるほどなあ…。「ピュアネスの究極」というのは、理想であったり仮想であったり、万人への担保として猶予されるという意味では、ファンタジーであることも許容範囲ですよね*2。ところが、未來くんのあのスライディングと「もう帰ろっか」という悲しい微笑み、押し殺したようなつぶやきと抑えようもなく放たれた叫びには、その世界の入り口にこっち側にいる生身の人間が引きずり込まれる、ファンタジーと現実との間の境界を一気に越えさせられてしまう、そんなうねりがありました。それを「血肉化された何か」というわけですね。うん、観客も血肉化されました。おとなしく見ていられない。あの瞬間、観察者の観客も当事者になっちゃってたもんなあ。
 さらに筆者はもう一歩分析を進めます。ダンスに触れて「肉体を感じさせる俳優であること」という点を指摘…。
 ええ、「肉体」です、「身体」というようなニュートラルなもんじゃないですねえ。エドガー見た後では、それ、とっても納得です…ほんと納得です。この人に、エドガーも語ってほしいなあ…なんて読みながらじりじりしたり(笑)。でも秀逸だと思ったのは、「肉体」というキーワードからさらに彼の「知性」を導き出す筆法です。「長く自らの肉体と会話を繰り返して来た彼が、感情の沸点を表現しているときでさえ、どこか理知的な、すぐれた知性を感じさせてくれる理由もやはり…」(以上、引用はすべてp.80)というあたりです。私は、肉体表現や形象表現を究極まで突き詰めて行くと、精神や知性がポンと裏返るように顕在化する臨界点があって、未來くんは、その臨界点まで走り続け、それをフワッと飛び越えられる人なのかも、と考えていました。これはこれで自分では納得してるんです。が、「知性」については、その肉体表現で観客を波にさらっておきながら、自分はそれを冷静に見る視線をもっている*3という指摘に一理あるなと納得。で、それを「会話」だというわけね。ふむふむ。
 その後は、『スクールデイズ』の中身に触れつつ「自然体で求心力を発揮していく」と続きます。守屋監督の「泣くシーンだと彼はリハから泣いてるんで、周りも本気でやらなきゃみたいな」という言葉も引用されます(ともにp.81)…。これも『Bat Boy』のエドガーや、『情熱大陸』であぶり出された未來くんそのものですよねえ。主役ということに全く気負いがないということも含めて、どんな役柄を前にしても揺らがない未來くんのスタンスに、改めて感服したりしました…。『スクールデイズ』、今まで以上に楽しみだぞ!☆ でも、冬ですか…、秋からまた伸びちゃったもんねえ。随分さきだよう(涙)。


 それにしても、こういう風に緻密に語られる文章を目にすると、森山未來という人物そのものが、議論や評論の対象として、将来、立ち現れてしまうのではないかという気にすらなってしまいます。確かに、もう少し感情的に距離が有ったら、私も書きたくなるかもしれないな(笑)、心もってかれてるから書けないけど(絶対無理)。…といいつつ、この筆者さんもかなり惚れておられる感じでは有りますね。それがまた嬉しい(笑)。


【付記】さっき気づきました。このテキストを書かれた宮嵜広司氏、な、なんと『Cut』の編集長殿なのですね!ひゃー、たいへん失礼いたしました!!偉そうにいろいろ書いちゃった。冷や汗です…。
 

*1:文中に、ジーノと思われるCMに言及しておられるので、たぶん最近加筆された部分も含むかもしれませんね

*2:未來くん自身もファンタジーとかメルヘンって称してたもんなあ…そのくせ演るとあんななんだもん、ずるいよ笑

*3:そういうことを言おうとしておられるんだろう、と勝手に解釈。